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公益財団法人実験動物中央研究所
2015年8月3日発


ヒト化肝臓マウスモデルのマラリア研究への貢献

 公益財団法人実験動物中央研究所(実中研)は、かねてより、国際的に重大な感染症であるマラリアに関する研究をフランス国立保健医学研究機構(INSERM)と共同して実施してきましたが、この度、この病気の完全な感染モデルの開発に世界で初めて成功しました。
 マラリアは、熱帯、亜熱帯地域を中心に年間3~5 億人が感染し、死者数も100~150万人いるといわれている病気です。熱帯熱マラリア、卵形マラリアなど4種の病気のタイプが知られ、それぞれ別タイプのマラリア原虫によって引き起されます。マラリア原虫は、複雑な発育環を営み、蚊の中で有性生殖、ヒトの中で無性生殖をします。蚊に刺されることによってヒトの皮膚に侵入したマラリア原虫は、肝臓細胞でまず増殖し(肝内発育)、その後に赤血球で増殖します(赤内発育)。その感染血液を蚊が吸うことによって発育環が成立します。このヒトのマラリアはサルにも感染しないことから、これまで動物の感染モデルはまったく存在しませんでした。
 実中研は2002年にヒトの細胞や組織がマウスの中で生存することができる超免疫不全マウスであるNOGマウスという新しいマウスを確立しました。このNOGマウスの発展系でヒト肝細胞の移植によってマウス肝臓がほとんどヒト肝臓に置き換えることができるヒト肝臓-NOGマウス(hu-liver-TKNOGmouse)を2011年に開発しました。この成果を同年にいち早く注目したINSERMのマラリア感染免疫センター(CIMI-Paris)のDominiqeu Mazier教授が、ヒト肝臓-NOGマウスを開発した末水洋志(すえみずひろし)博士(実中研、研究部門副部門長)に共同研究を持ちかけ、以来共同で研究を実施してきました。この研究では、ヒト肝臓を持つマウスにさらに赤血球を移植することによって、ヒトの生体の中で起きるマラリアの複雑な発育過程を完全に再現することに成功しました。また、患者由来マラリアの感染モデルの確立にも成功しました。今後、このモデルは、マラリアの感染機序や、死亡にまでいたる病気の機序を解明し治療法等を開発する研究に役立つことが期待されます。
 この成果は、2015 年7 月24 日発行のNature Communications 誌に掲載されました。

 実中研:1952 設立の公益財団法人の研究所。病気の解明や治療法の開発に欠かせない実験動物の開発やその品質を保証する検査を行なっている研究所であり、がんや精神疾患の様々なヒトの病気のモデルの開発に実績を有す。国際総合戦略特区および国家戦略特区に指定されている川崎市殿町地区(キングスカイフロント)に所在。NOG マウス:実中研の伊藤が開発した免疫機能がほとんどゼロに近い実験動物で、このことによって異種の細胞(例えばヒトの血液・免疫細胞のもとになる造血幹細胞)がこのマウスの中で生着・増殖してヒトの免疫系等が再現されるマウスを作ることができる。このようなマウスをヒト化マウスモデルといい、病気の解明や先進の新薬の開発に活用されている。

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